March 5, 2022
先日映画館で『香港画』『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』という映画を立て続けに観た。内容はどちらも2019年に起きた香港民主化デモが核になっている。
『香港画』はたまたま仕事で香港に滞在していたときにデモ隊と遭遇した日本人監督が壮絶な民主化デモの渦中で記録した28分間のドキュメンタリー映画で、『デニス・ホー ビカミング・ザ・ソング』は香港のトップシンガーであるデニスホーが民主派活動家として地位や名誉も捨て(あげく逮捕までされている)権力に立ち向かう姿を記録したものだ。
この歴史的なデモが起こる約5年前に1度だけ香港を訪れたことがある。
香港返還直前に作られたウォン・カーウァイによる映画『恋する惑星』や『天使の涙』、香港返還の真只中で撮影された浅野忠信主演の『タイフーンシェルター』などから伝わってくるあのヒリついた空気感、独特の色彩世界(今思えば撮影監督クリストファードイルの感覚によって作り出されたものでもあったが)に憧れて観光気分で遊びに行った。
香港唯一のライブハウス”Hidden Agenda”に足を運んだことが最も印象に残っている。
Hidden Agendaはとにかくすごい場所にあった。歓楽街とは程遠い、工業地帯の端っこの倉庫を改造して作られていて、建物の入り口はシャッターを人が通れるくらいの長方形に切り抜いてあり、奥にあるぼろぼろの薄暗い搬入用エレベーターで上がったところに突如姿を現すという感じだった。
それは香港の馬鹿高い家賃など様々な問題があってそうせざるを得なかったということらしい。
当時香港のインディーズ音楽シーンは日本なんて比べ物にならないくらいマイノリティで、アーティストはもちろん、それに関わる全ての人たちは想像を絶する覚悟と強固な意志を持っていたんだろうと思う。
その時にステージで演奏していたのは地元のバンドだったことを覚えている。演奏力が稚拙なシューゲイズバンド。表現することへのピュアな喜びと強い覚悟で溢れていて、それが伝わってきたときの感動は今でもまだ記憶に残っている。
2017年、このライブハウスは閉店した。
その引き金となったのは政府のガサ入れ(「不法就労斡旋の疑い」という強引な理由付け)だ。
思えばこの事件からして既に香港での”表現の自由”は脅かされていて、その2年後に政府の暴走が激化していったのは必然だったのかもしれない。
これはもちろん他人事ではない。
既に日本でも菅政権時代に強行した学術会議会員任命拒否問題によって国民の自由は今も水面下で脅かされている。そして表現の自由が奪われた行き着く先は、きっと戦争の道へと繋がっていく。
映画で見た香港のデモ隊は皆一様に若く、それは性別関係なく10代から20代の若者たちが巨大な権力に立ち向かって自由を守ろうとする気高く美しい姿だった。
この国はどうだろう。
お上の言うことは疑うことなく真に受けて、従順で平和な日常を生きてきた僕たちは、同じような危機が訪れた時に彼らのように人生をかけて立ち向かえるだろうか。
守るものがあるのなら、僕たちはもういい加減に、まずは目覚めなければならない。